イギリスの記事を書いていた7年ほど前、ロンドンは好景気だった。
地下鉄ではノートパソコンをひろげ仕事にいそしむ男性が増え、「なぜロンドンは凄いのか」という特集を組め。と上司が言ってきた。
凄いことなんて、何もない。
と思っていた。この好景気は、一人一人の能力のせいではなかったからだ。
日本は昔、バブルが崩壊し、夢から覚めたそうだ。
拡大し続けることは、おそろしいな。と思ったのだろう。
膨らめば、いつかしぼむ。
それが投資社会のセオリーだ。
同時に、幸せは金だけじゃないということに目を向ける人が多くなった。
その対象となったのが、フランスやイギリス、イタリアなど、経済は決して好調ではないヨーロッパの田舎に暮らす人々だ。
成長も減退もない、同じ毎日を続ける人々。
日常にある幸せを伝統的に味わう。
日本はバブルなリッチ気分を味わったあとで、そういった幸せにも目を向けるようになった。
実際、イギリスの田舎町をまわってみると、その幸福度は日本の都市に比べて、測定不能なほど高かった。
そして、リバプールやロンドンに帰るたびに、それは完全消滅する。人の表情が一変するのだ。
ロンドンは当時、たしかに仕事でいっぱいだったが、単に時期的なものだった。
世界の金が、ロンドンに向いていただけ。
投資、不動産というマネーゲームがある限り、好調な経済など存在しない。
そして人々は、バブルで忙しくなっているのを、自分の能力のおかげだと勘違いしていた。
実際は、大金を持った人がその国に訪れ、金を払ってロンドン市民を奴隷のように働かせているだけだ。
「忙しい」と「奴隷」という言葉が、イコールになる瞬間がそこにはあった。
凄いことなんて、何もない。
数年後、ロンドンのバブルは崩壊した。
なぜバブルを人は繰り返すのか。
イギリスの隣のアイルランドは、90年代後半から急激な経済成長を遂げ、不動産バブルが発生した。
そして、2008年の金融危機で崩壊。
40万件の空き家が生まれ、ダブリンには2000人以上の路上生活者がいる。
中国にかわる経済成長を期待されていたベトナムはインフレがおさまらず、2011年のGDP成長率は対前年同期比で5.9パーセント。前年の6.8パーセントから下がったことがニュースになった。
膨らめば喜び、少しでもしぼめば批判する。
韓国も中国も、自国の経済成長を喜んでいる。
しかし、膨らめば、いつかしぼむ。
失業者はあふれる。
好調時に人口が増えたツケとして、その子どもたちに仕事はない。
中国は共産党政権が経済をコントロールしているという。
バブルの発生をおさえるのも当然計画されている。
しかし、日本のメディアは一斉に中国の経済成長に明日がないことを盛んに報道している。
もう手遅れなのか。
さまざまな理由があるが、日本企業から中国から手を引くことは、ある意味、新グローバリズムの弊害を中国も受けることになる。
韓国も事態は深刻だ。
一番やってはいけない新グローバリズムの実験場のようになっている。
韓国の経済を支えているのは海外の投資家や会社。
まさに新グローバリズムにとっては理想的な状況だ。
一部の大会社が売り上げを固め、投資家、経営陣、社員、その下の会社の順にヒエラルキーが露骨に生まれ、一番幸せであるはずの自営業や農家が圧迫される。
そして、韓国も自殺大国になってしまった。後戻りは、できない。
もちろん、日本でも郵政民営化あたりから、新グローバリズム陣営の攻撃は今も続いている。
政治とビジネス、成長の問題を考えている人々にとっては、それほど安まる日はない。
あの山中さんは、そんな浮き世に目をくれず研究を続けたのか。
まるでイギリスの田舎町で暮らす幸せな人々のように、地道に。
経済が好調だろうが下降気味だろうが、研究は続ける。
そして田舎の人々はチーズを造り、畑を耕す。
国は経済の好調不調よりも、適正な経済状況にキープし、人口をキープすることに集中してほしい。
新グローバリズムもコントロールがきかなくなるのでやめたほうがいい。
「自由な競争」に問題があることは、明白だ。
経済共同体も、今は無理。
EUのように経済の大事なところを国が決められないと、あんな感じになる。
日本は決して他国の経済成長などを追いかけてはいけない。
経済成長に憧れない。
それが日本の生きる道だ。
文 沼畑直樹
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