ナチス時代。
秘密の軍事工場がバイエルンの森に建設されていた。
収容されていたユダヤ人フランクルは、夕陽の光が木立に沈むさまを見ていた。
「まるで、デューラーの水彩画のようだ」とつぶやいた。
ある日は、労働で疲れ果て、スープの椀を片手に土の床にへたりこんでいたとき。
誰かが走ってきて、「外に出ろ!」と叫んだ。
外には、夕陽で赤く燃え上がる西の空があった。
「この世のものとは思えない色合い」と彼は感じた。
誰かが言った。
「世界はどうしてこんなに美しいんだ!」
これは、比較的豊かで文化的な暮らしから一転、番号で呼ばれる尊厳なしのアウシュビッツ収容所生活を描いた《夜と霧》に描かれていた物語だ。
すべてを削ぎ落とされ、感情をも削ぎ落とされるという収容所生活で、彼らはあかね色の夕陽に心を奪われていた。
《夜と霧》を読むとき、いつもこの場面を読み返す。
「壕のなかの瞑想」という章だ。
収容所の彼らは、以前の生活でも美しい夕陽に出会っていたはずだ。
それなのに、なぜ収容所で心奪われたのか。
ユダヤ人は都市生活者だったが、やはり都市では夕陽に会うことは難しい。
「東京でも夕陽は見える」
という人はいる。
厳密には西東京だが、実際は、ほとんど見えていない。
早いうちに、建物に隠れてしまうからだ。
だから、私たちも西に目を向けたほうがいい。
少しでも夕空、薄明を見るためだ。
そのために、
夕方、西の空にあかね色に染まる雲を見つけたら、なるべく高いところにのぼる。
それができないのなら、西に向かって抜けている道を探す。(季節によって太陽の角度が違う)
川、崖線は遭遇確率が高い。
東の人なら、埋め立て地(お台場含む)で問題ない。
実際は、夕方に移動するのは難しい。
夕方は生活のために動いていることが多く、会社にいたり、食事の準備をしている。
ただし、それでも夕陽を見ることは、心を満たし、あなたの人生に大切な瞬間となることは間違いない。
その回数を増やそう。
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